この記事では「木材の基礎科学」について要約します。本書は以下の内容について書かれています。
・木材に関連する基礎的な科学として最も重要だと考えられている樹木の成長
・木材の組織構造、物理的な性質
・各種環境における木材の劣化とその耐久性向上の方法
・木質系諸材料の製造に関する諸事項について
基礎から応用まで、専門家によってわかりやすく書かれていた一冊です。
この記事では、本書の中から特に重要な部分を要約しております。
木材の成長と構造
前提として木材を生産する樹木についての定義を整理しておきます。
樹木とは2つの条件を満たしているものです。
1.地上部に冬も枯れない多年生の幹があること
2.その幹が年を経るにしたがって太くなること
第1章は、木材の構造を肉眼的構造、顕微鏡的構造、そして木材の異常組織について解説しています。肉眼的構造について要約します。
木材の肉眼的構造
木材の3種の方向と断面
木材の大きな特徴は異方性材料であることです。
例えば、丸太の場合は幹の横断方向と軸方向では性質が異なります。
木材の木部細胞は、ほとんど全て幹の軸方向に沿って非常に細長い細胞なので、縦に裂けやすい性質を持っています。
軸方向についてさらに詳しく解説すると、幹の中心から周囲に向かう放射方向と年輪に沿った接線方向とに区別されており、この2種の方向において細胞の形や配列が異なっています。
よって、木材の構造や性質を調べるときは、この3種の方向(横断方向、放射方向、接線方向)もしくは3種の断面を常に考えておくことが重要です。
年輪および木材の成長
丸太の木口面の大きな特徴は、同心円状に積み重なった年輪の存在です。
針葉樹では春に生産される材を早材や春材と呼びます。
特徴は柔軟で一般的に白っぽい色調です。
季節が春から夏に移ると形成層活動が低下して、生産される細胞数が減少します。
しかし、光合成産物は豊富に供給され材は重硬となり、色は濃い褐色になります。この部分のことを晩材あるいは夏材と呼びます。
樹木の成長と年輪の幅の関係をみると、早材の幅は樹木の若芽や葉の増加によるオーキシンの生成と密接な関係にあり、生育状態の良い立木や若くて樹勢の旺盛な他的では早材の幅が広くなり、若芽や葉の増加が停止してから形成される晩材の幅は、樹勢によってあまり影響がなく一定です。
辺材と心材
辺材とは、丸太の周縁部分の白っぽい部分のこと。
心材とは、丸太の中心部分の着色した部分のこと。
心材の美しい色調は木材の工芸的利用に重要な意味があり、赤みがかったスギ、桃色がかったヒノキ、こい黄褐色のケヤキ、桃褐色のヤマザクラなどが珍重されています。
木材の物理的性質
第2章は木材の構造を理解することが重要な観点から、3つの視点で段階に分けて解説されています。
・肉眼でみることができる構造
・虫眼鏡や光学顕微鏡でみることのできる構造
・電子顕微鏡などでみることができる構造
以上の3点からわかることは、木材は管状の細胞が集合したもので、細胞の壁は層を成し、各層は鉄筋コンクリートに似た構造を持っていることです。
鉄筋コンクリートに構造は似ていますが、金属、プラスチック、セラミックなどに比べて「木材は空隙が多いから軽い」という特性を併せ持っています。
また、木材の性質が異方性であるのは、細胞の配列の仕方や細胞壁の構造が、方向によって異なるからです。多孔体で、複合構造を持ち性質が異方性を示すことは木材の重要な特性です。
第2章では他にも以下の性質について記述されています。
・水と木材
・力と木材
・電気と木材
・木材と住環境
ここでは、木材と住環境について詳しく解説します。
木材と住環境
居住性は、住環境に対する評価で決まります。
住環境を住宅の外部と内部に分けて考えると以下のような関係性が見えてきます。
居住性の外部:地域の気候、地質、水質、交通、都市化の程度、公害など
居住性の内部:住宅の耐力、防火、耐久性、安全性、快適性、便利さ
ここでは住宅内部の環境について、住宅の快適性に関わる木材の働きについて解説します。
住宅の部材として使用される木材の温度や相対湿度などの気候調節機能や、視覚、触覚、聴覚などの感覚特性についての特徴は以下の通りです。
◯特徴
・木材はコンクリート、グラスウールなどの断熱材に比べて、断熱性、温度調節性能に優れている。
・木材は、コンクリート、塩化ビニルのようなプラスチック、ガラス、金属に比べると、吸湿性が高く、湿気を通しやすい材料である。
・視覚特性として、色、反射、九州、木目模様が重要である。
・木材は材料の中でやや暖かい感じを与える触覚特性を持っている。
・木材を住宅の内装材料として用いた場合、吸音率が比較的に大きいので吸音性能に対してはさほど問題にならない
・木材は透過損失が小さいので、遮音性能に劣り、壁構造に工夫が必要である。特に床材として用いた場合は階上の床衝撃音が大きな問題になる。
木材の保存
木質材料は、木材を主な原材料として、物理的、科学的、機械的加工によって製造された材料と定義されています。
工業的に製造されている木質材料には、集成材、単板積層材、合板、パーティクルボード、ファイバーボード、木質セメント板などがあります。
特別な場合を除き、木質材料の製造には接着剤が用いられます。
ここでは、集成材に関する知識について要約します。
木質材料:集成材
集成材は木質材料の中で最も大きなエレメントから作られています。
構造用にはレゾルシノール樹脂接着剤や水性高分子ーイソシアネート系接着剤が、造作用にはユリア樹脂接着剤や水性高分子ーイソシアネート系接着剤が用いられ、30〜40℃の室内で積層接着されます。
大型構造物の耐力部材である構造用大断面集成材への水性高分子ーイソシアネート系接着剤の使用は認められていません。
木材接着に関しては、「木材接着の科学」について詳しく要約した記事がありますのでご参照ください。
ラミナの繊維方向は並行で、構造用では5層以上集成接着し、各ラミナの縦継ぎはスカーフまたはフィンガージョンイントと規定されています。
集成材は製造工程で節などの欠点が分散、除去され、強度のバラツキが少なくなるので、許容応力度は製材の値の1.5倍に認められています。
構造用大断面集成材に用いるラミナの品質は、従来「目視」で評価していましたが、現在は「機械」により曲げ応力を測定する方法が導入されています。
製材端材などの小断面材を横はぎした集成材料をブロックボード、その両表面に繊維方向を直交させて単板をオーバーレイしたものをランバーコア合板と呼び家具に使われています。
集成材の基礎についてもっと具体的に知りたい方はこちらの記事もご参照ください。
木材の基礎科学まとめ
最後に重要な部分をまとめます。
まとめ
・木材の大きな特徴は異方性材料である
・木材は縦に裂けやすい性質を持っている
・木材の特性は多孔体で、複合構造を持っていること
・木材は断熱性、温度調節性能に優れている
・木材は吸湿性が高く、湿気を通しやすい材料である。
・木材は腐る、虫に食われる、燃える、狂うといった短所がある
・木材の短所への主な対策は木材の非栄養化である
・難燃効果は防火薬剤・防火塗料・防火被覆材料の組み合わせにより発現する
今回ご紹介した内容についてさらに詳しく知りたいという方は、「木材の基礎科学」の一読をおすすめします。