木材接着の基礎から実用まで、そして環境問題に至るまで網羅的に学べる1冊です。
本書は以下の順にまとめられています。
● 木材接着の基礎
● 木材用接着剤の種類
● 木材接着剤の工程
● 木材接着の性能評価と耐久性
● 木材接着の実用
● 木材接着と環境問題
本書より「構造用集成材」に関する木材接着について基礎、接着剤の種類、接着剤の特性を要約した後、構造用集成材に使用される木材接着剤について解説します。
木材接着の基礎
木材接着の基礎では「木材接着の発現機構」「木材の種類」「木材の性質」「異方性」「木材の強度・化学組成」について解説します。
木材接着とは?
木材接着は、木材が多孔質で異方向の不均一材料である上に、種類も多種多様であり、適切な接合状態にするためには被着材の調整と接着剤の選定および接着操作が極めて重要になります。
接着力の発現機構は複雑怪奇で1つの説で説明することが難しいとされています。本書では”各説が総合的に作用する事で接着する”と理解することが妥当だと記載されていました。提唱されている諸説は「機械的接着説」「比接着説」「静電接着説」「拡散説」「酸ー塩基説」などがあります。
木材接着に用いられる木材の種類
接着加工用材として用いられる主な木材の種類には、「国産材」「南洋材」「北洋材」「北欧材」「北米材」「オーストラリア・ニュージーランド材」「南米・アフリカ材」があります。国産材には「針葉樹材」と「広葉樹材」があります。針葉樹材は、集成材用ラミナ、突板用スライスド単板、合板・LVL用ロータリー単板として用いられるが、樹脂を多く含んでおり、接着性に影響することが多い。代表的な樹種はスギで、2004年時点での供給量は50%以上になっています。広葉樹は集成材ラミナ、化粧単板、フローリング、家具用材等として用いられています。表面化粧材として木目や杢の美しさの利用が特徴的です。
木材の物理的・化学的性質
木材の密度は、樹種によって異なります。含水量によって重さと容積が変化するので、木材の密度は、含水状態によって区別されています。
木材中の水分は、自由水と結合水の2種類に大別されます。自由水とは、木材中で細胞内腔や細胞壁中の間隙に液状で存在している繊維飽和点以上の水のことで、重量の増減、熱、電気的性質に影響を与えます。
結合水とは、細胞壁中に存在し、木材実質と二次的に結合している繊維飽和点以下の水のことです。この水分の増減は、木材の物質的、力学的性質に影響を及ぼします。木材中の水分含有状態は、5つに区別ができます。①全乾状態②気乾状態③繊維飽和点④生材状態⑤飽水状態です。
・異方性
木材は、縦に長い繊維細胞が樹幹の軸と同方向に配列しているので、物理的・機械的性質には方向性があります。この材料の方向によって性質が異なることを異方性といいます。
木材の膨張・収縮は、繊維方向にはほとんど起こりませんが、繊維の直角方向には大きく起こります。一般的に、接線方向と半径方向の膨張・収縮異方性は、低密度材ほど大きくなります。
木材は、横断面の収縮異方性に起因して狂いや割れが発生する問題点を抱えています。繊維方向の圧縮や引張には強い性質がありますが、横方向の圧縮には極めて弱い欠点があります。
木材の強度
物体に作用する荷重によって内部に生じる応力をひずみといいます。ひずみは荷重初期には応力とひずみには直線関係があります。しかし、荷重の増加に伴って限界を超えるとひずみの増加割合が次第に増大し、木材を破壊します。一般的に鋼は強い弾性があることで知られていますが、木材は弾性限度が低い特徴があります。また鋼の場合は比例限度内で発生した応力が低くなった時は元に戻る性質がありますが、木材には若干のひずみが残り続ける「永久ひずみ」という性質があります。
木材の化学組成
木材は主要成分と副成分(抽出成分)に大別できます。主要成分は細胞壁および細胞間層を構成する成分で「セルロース」「ヘミセルロース」「リグニン」からなり木材の95%を占めています。副成分は、細胞内含有成分であり、「テルペン」「デンプン」「フレボノイド」「フェノール類」「糖類」「ペクチン」「アミノ酸」「タンパク質」「高級脂肪酸」などの抽出成分と灰分からなり、木材中の5%程度存在しています。副成分(抽出成分)は接着剤のぬれを悪くし、接着阻害を生じたり、塗布された接着剤の中に溶け込んで接着剤の硬化反応を遅らせ接着強度を低下させるデメリットがあります。
木材用接着剤の種類・接着剤の分類
接着剤は2つの物体を貼り合わせるために使われる物質で、一般に液状あるいはゲル状の物質から成り、接着後には固化して固体となることで接着力を発現する物質です。接着剤の分類には主成分による分類と物理的形状による分類、固化の仕方による分類、接着強さや用途による分類などがあります。
主成分による接着剤の分類は有機系・無機系に大別されています。有機系はさらに天然系、合成系に分類されており、天然系はタンパク質系、デンプン系、樹脂系、歴青質系に分類されます。合成系は樹脂系、ゴム系、混合系に分類されています。
形状による分類は水溶系、溶剤系、エマルジョン系、無溶剤系、固形、テープ系に分類されています。中でも溶剤系は主にゴム系などの柔らかい高分子物質を有機溶剤によって溶かして液状にした状態で製品となっており、いろんな被着材に対して初期接着性が非常に優れ、溶剤揮散も比較的に早い特徴があることから建築現場におけるさまざまな建材の接着に使用されています。
固化様式による分類は溶剤揮散型、放冷凝固型、化学反応型に大別されタイプ別に細かく分類されています。
接着強さによる分類は、構造用部材から造作用品まで用途に応じた接着剤を適正に使用することが重要です。一般的に熱硬化性の樹脂や化学反応系の樹脂は構造用に、ゴムなどの弾性系や熱可塑性の樹脂、天然系の接着剤は非構造用に分類されます。木材材料の場合は、構造用にはレゾルシノール樹脂、フェノール樹脂、水勢高分子ーイソシアネート系、エポキシ樹脂接着剤などが用いられます。特に構造用集成材は、建物の安全への環境によって使用可能な接着剤の種類を耐久性の実績等により定めています。
用途による分類は、硬化性によって合板やボード類の製造に用いられるホルムアルデヒト系接着剤等の加熱硬化型と集成材や2次加工、建築施工、家具、木工などで用いられる常温硬化型の2つに大別されます。集成材には常温硬化型のレゾルシノール系樹脂、メラミン樹脂、水性高分子ーイソシアネート系樹脂接着剤が用いられています。また建築現場での接着に用いられているものは構造用にウレタン樹脂系、エポキシ系樹脂が、内装用にはこれらの他に合成ゴム系、アクリル系樹脂などが用いられます。
水性高分子ーイソシアネート系接着剤の特性
水性高分子ーイソシアネート系接着剤は高分子水溶液や水系エマルジョン等を主成分とした活性水素を有する主剤に分子中に2個以上のーNCO基を有するイソシアネート化合物を架橋材として混合し使用する接着剤です。主剤や架橋材の素性により硬化した接着剤フィルムは硬いものから柔軟なものまで設計でき、高い耐水性能が得られる事により木質材同士の接着をしています。現在では集成材の接着において圧締時間が比較的短く生産効率が良いこと、ホルムアルデヒドの放散がないこと、高い接着性能が得られること等により使用量が増えています。
接着剤の製造方法としては、PVAを水溶液としたものに炭酸カルシウム、エマンジョン系の原料、その他の原料を順次攪拌しながら混合していきます。組み合わす配合比率は、どの様な被着剤をどの様な工程で接着を行うかにより決定します。例えば、集成材などを接着する場合、接着剤を材料に塗布してからプレスして加圧するまでの時間が長い場合は、加圧する前に接着剤が乾いてしまわないよう、固形分を低くし、水分量を多くします。逆にプレス時間を短くしたい場合は出来るだけ水分量を減らし、固形分を高くした配合とする調整を行います。
木材接着の実用
木質材料の種類と特性
木質材料は、木材などのリグノセルロースを細断・加工して細分化したものに接着剤を塗布して圧締成形した材料の総称です。細分化したものを一般に「エレメント」と呼び、ラミナ、単板、パーティクル、ファイバーなどの種類に分けられています。それぞれのエレメントから、集成材、合板、単板積層材、パーティクルボード、ファイバーボードが製造されます。使用する接着剤の性質が材料の性質に大きな影響を及ぼすため、木質材料にとって接着剤は重要な役割を担っています。
木質材料の種類
木質材料ではエレメントを接着成形するため、小径材や工場廃材、建築解体材などを原料に利用することができます。木質材料の利点は、木材特有の節や腐れなどの欠点が分散あるいは除去できるので、バラツキの少ない、均一な材質であることです。また、工業生産が可能で、小さなエレメントから大きな材料を造ることができます。
工業的に生産されている代表的な木質材料には集成材、合板、単板積層材、パーティクルボード、OSB、FBなどがあり、その中で集成材は柱梁などの軸材料として用いられています。木質材料は全体的に材料密度が大きくなると強度も大きくなります。また、エレメントの形状が大きくなると強度も大きくなる傾向があり、同じ密度で比べたら場合、集成材や合板といった繊維配向性材料が、パーティクルボードやFBなどの繊維非配向材料よりも数倍大きくなります。繊維配向性材料の中では、一般に集成材やLVLなどの一軸配向軸材料の方が、合板やOSBなどの二軸配向面材料よりも高い強度を示します。木質材料の力学的性質は、繊維配向度と密度によって影響を受けることがわかっています。
集成材
集成材は日本農林規格(JAS)に定められた、「ひき板、小角材等をその繊維方向を互いにほぼ並行にして、厚さ、幅及び長さ方向に集成接着した一般材」のことです。分かりやすく言うと、木材の板を繊維方向がほぼ平行になるように何枚か重ね、目的の大きさになるように接着剤を使用して貼り合わせたものです。
集成材の特徴
集成材の特徴は板を貼り合わせて作るので、無垢材では困難な大きな断面、長さや湾曲したものなど自由な大きさ、形状を作ることができることの他、以下のような特徴があります。
● 板状の比較的薄い木材を使用するため、乾燥を均一に行うことができるので含水率のバラツキが少なく、含水率変化に伴う割れ、寸法変化、反り、ねじれ等が少なくなる。
● 節などの欠点部分を取り除いて貼り合わせることが可能で、製品の強度にバラツキが少なく安定した性能が得られる
● 表面に薄い化粧板を貼ることが出来、外観の優れた製品が作れる
● 構造部材として集成材を使用した場合、火災の際に木材は燃えるが、断面積が大きいと燃えるのに時間はかかる為、鉄の場合のような高温下での急激な強度低下が起こらない
集成材の種類
集成材は日本農林規格により、「構造用集成材」と「造作用集成材」の2種類に分けられています。構造用集成材は建物の耐力部材として柱や梁などに使用され、造作用集成材は住宅や内装材や家具に使用されます。構造用集成材は建物の構造部材に使われるので高度な性能が要求されるので材料の強度や、最終製品の強度、接着性能が使用環境によってA、B、Cに分けられています。以下に詳細を記載しておきます。
使用環境A
構造用集成材の含水率が長期間継続的に又は断続的に19%を超える環境、直接外気にさらされる環境、太陽熱等により長期間断続的に高温になる環境、構造物の火災時でも高度の接着性能を要求される環境その他構造物の耐力部材として、接着剤の耐久性、耐候性、耐熱性について高度な性能が要求される使用環境
使用環境B
構造用集成材の含水率が19%を超える環境、太陽熱等により時々高温になる環境、構造物の火災時でも高度の接着性能が要求される環境その他構造物の耐力部材として、接着剤の耐久性、耐候性、耐熱性について通常の性能が要求される使用環境
使用環境C
構造用集成材の含水率が19%を超える環境、太陽熱等により時々高温になる環境その他構造物の耐力部材として、接着剤の耐水性、耐候性、耐熱性について通常の性能が要求される使用環境
集成材の製造工程
構造用集成材は使用する板の曲げ強さを確認し、貼り合わせた時の一番外側に強い材料が配置されるように仕組む、木裏、木表を考えて反りにくい構成にするなど様々な要素に配慮し接着しています。製造工程の概略は以下の通りです。
1. 原木
2. 製材
3. 乾燥
4. 荒仕上げ加工
5. 仕分け
6. たて継ぎ接着
7. 接着面の加工
8. 接着
9. 仕上げ加工
10. 検査
11. 梱包
12. 出荷
たて継ぎ接着(フィンガージョイント)
集成材に使用する板をラミナといいます。ラミナは集成材にした際に目的の長さとなるようにつなぎ合わせて使用されています。また、節など腐った部分があれば欠点部分は取り除き、短くなった材を目的の長さになるように縦方向に接着します。その際一番強度が高い方法としてフィンガージョイントが使われています。フィンガージョイントは機械でフィンガー形状の加工、接着剤塗布、圧締を行います。重要なのはフィンガー部分の形状が、押し込んだ際に容易に外れることがない精度の良い加工であることです。なぜなら塗布する接着剤が多すぎると圧締した際に多量にはみ出し、少なすぎると十分な接着強さが得られないからです。
構造用集成材に使用できる接着剤
高度な性能を要求される構造用集成材は使用環境A 、B、C別に使用可能な接着剤が定められています。これは集成材から放散されるホルムアルデヒドの基準があるためです。レゾルシノール樹脂系の接着剤は、耐熱、耐水性能に優れ、屋外での使用にも耐えます。しかし、硬化するまでに時間が長く必要で生産効率が水性高分子ーイソシアネート系接着剤に比べると劣ります。このため、使用環境Cに区分される集成材では生産効率の高い水性高分子ーイソシアネート系接着剤が主に使用されています。
集成材に使用される接着剤の種類と作業条件
接着剤の硬化形態によって作業条件が異なります。本書では樹脂の反応によって硬化するタイプのレゾルシノール樹脂系接着剤と、接着剤中の水分がなくなり皮膜を形成するタイプとして水性高分子ーイソシアネート系が解説されています。
レゾルシノール樹脂系接着剤は、主剤と硬化剤の反応により硬化するタイプの接着剤であり、効果に温度と時間を必要とします。従来のタイプの場合は材料を加温した状態で圧締時間が8時間以上必要でした。しかし貼り合わせる時間が長く取れるので、断面積の大きな集成材や湾曲したものを製造する際に、30〜60分の作業時間を確保することができるメリットがあります。最近では、生産性を向上させる為に1時間程度の圧締時間で製造できるレゾルシノール樹脂系の接着剤もあります。
レゾルシノール樹脂系の接着剤の注意点は、一定以上の温度がないと硬化しないことです。気温の低下する冬は、材料の温度が低いと硬化時間が伸びるので温度管理が重要になります。しかし温度を高めることで硬化時間が早くなるためホットプレスや高周波加熱を用い強制的に接着剤の温度を上げ、硬化を促進し圧締時間の短縮を図ることが出来ます。ホットプレスを用いる場合は、集成材の中央部まで熱が到着するには時間がかかる為、早く中心部まで加熱する方法として高周波加熱が用いられます。
水性高分子ーイソシアネート系接着剤の場合は、主剤と架橋剤としてイソシアネート化合物を混合して使用します。架橋剤を混合することにより耐水性能が向上する接着剤です。基本的には水が揮散して固まるタイプの接着剤なので、温度と接着剤中の水分量が作業性に大きく関与するので集成材を製造する際には考慮が必要です。
構造用集成材要求される接着性能
構造用集成材の場合は曲げ性能等の強度面での性能、外観等の性能など様々な性能が規定されていますが、接着性能についてのみ本書には記載されています。
構造用、造作用集成材ともに、接着性能の試験方法は日本農林規格で定められている浸せきはく離試験です。浸せきはく離試験は、集成材を水中に浸せきし、水を吸わせた後、乾燥を行い木材中への水の出入りによる膨張、収縮の動きに接着強さが勝るか、この時にぬれているので耐水性能に関しても試しています。構造用集成材と造作用集成材では試験の処理方法が異なり、水への浸せき条件および乾燥する際の温度が異なります。構造用では、試験片を水中に浸せきした状態で減圧、加圧を行い、無理矢理木材中に水を押し込む処理を行い70℃の温度で乾燥させます。構造用集成材は使用環境の違いによりこのはく離試験を繰り返す回数が異なり、高度な接着性能が要求されています。また、せん断試験も要求されており、荷重に対する性能評価もされます。
木材接着の科学まとめ
本書より「構造用集成材」に関する木材接着についての基礎、接着剤の種類、接着剤の特性、構造用集成材に使用される木材接着剤について要約しました。
● 木材接着は、被着材の調整と接着剤の選定および接着操作が極めて重要です
● 接着力の発現機構は各説が総合的に作用する事で接着しています
● 異方性とは、木材の物理的・機械的性質方向によって性質が異なることです
● 木材には弾性限度が低い特徴と若干のひずみが残り続ける「永久ひずみ」という性質があります
● 木材の副成分には接着剤のぬれを悪くし、接着阻害を生じたり、塗布された接着剤の中に溶け込んで接着剤の硬化反応を遅らせ接着強度を低下させるデメリットがあります。
● 接着剤の分類には、主成分による分類と物理的形状による分類、固化の仕方による分類、接着強さや用途による分類などがある
● 水性高分子ーイソシアネート系接着は、集成材の接着において圧締時間が比較的短く生産効率が良いこと、ホルムアルデヒドの放散がないこと、高い接着性能が得られること等により使用量が増えている
● 集成材とは、木材の板を繊維方向がほぼ平行になるように何枚か重ね、目的の大きさになるように接着剤を使用して貼り合わせたもの
● 集成材は「構造用集成材」と「造作用集成材」の2種類に分けられます。
● 構造用集成材は建物の構造部材に使われるので高度な性能が要求されるので材料の強度や、最終製品の強度、接着性能が使用環境によってA、B、Cに分けられています。
● 構造用集成材から放散されるホルムアルデヒドの基準があるため、使用環境A 、B、C別に使用可能な接着剤が定められている
● 集成材に使われる接着剤にはレゾルシノール樹脂系接着剤と水性高分子ーイソシアネート系がある
本書より集成材・構造用集成材に関する接着の基礎、種類、実用を抜粋して要約しました。本書にはこの他にも木材接着の工程や影響する因子、性能評価と耐久性、他のエレメントの実用、環境問題についても書かれています。
木材接着の基礎から環境問題まで網羅的に学べる1冊で、初心者向けの入門書です。
本書にはまだまだ深い内容が書かれていますので購入して深く読まれることをお勧めいたします。