プロでも意外に知らない木の知識

林 知行(著)

 

今回は林 知行が書かれてた「プロでも意外に知らない木の知識」についてご紹介させていただきます。本書は2004年3月に刊行された「ウッドエンジニアリング入門」の改訂版です。

 

本書は木の強さを正しく活かすための必読書です。樹木の機能や成長についての基礎、木材の加工、木質建材の活用、木造の構法まで木の知識が1冊で学べる書籍になっています。

 

インターネット上に間違った知識が氾濫する中、木材に関する正しい知識がまとまった書籍としておすすめです。本書は全5章+実例集で構成されています。

 

1. 木材利用の常識・非常識

2. 木材の強度的性質

3. 木材の加工

4. 木質建材の強度特性

5. 材料からみた木材建築

 

本書の内容をわかりやすく要約します。

木材利用の常識・非常識

第1章には木材・木造のプロである業界人でも誤解している樹木と木材に関する基本的な科学知識について7項目に分けて書かれています。

 

1. 木材利用の意義

2. 樹木の成長

3. 木材の強度発現メカニズム

4. 木材の物性と水分

5. 木質建材の種類

6. 構造用建築材料としての木材の長所と短所

7. 木材と木質材料の耐久性

 

この中から集成材に関わる5.6.7番を重点的に要約します。

木質建材の種類

木質建材には、ほとんど加工せずにそのまま用いる丸太のような製品から、木質材料同士をさらに複合接着させた木質複合材料までさまざまな種類があります。簡単に用語の意味の説明をします。

木材・木質

木材とは、樹木の成長によって樹皮の内側に形成される部分の総称です。ただし寸法が小さい場合、微細なパーティクルや粉体などは木材の性質は継承していますが、木材というには無理があります。そこで、このような微細な構成要素の概念を付加して木材の意味を拡張した用語が木質です。

 

木質建材

木質建材とは数ある建築材料のなかでも、木質を原料にしたものです。建築関係では、「木質系材料」と呼ばれることもあります。単なる製材や丸太、防腐土台のような化学処理木材、木質材料もこの範疇に入ります。

木質材料

木材を一旦バラバラの原料エレメント(ひき板や単板など)に分解し、乾燥した後、接着剤によって再構成した材料が木質材料です。

 木質材料には、大きな力がかかる構造部材に使われる「構造用」と、造作材や化粧材に使われる「造作用」があります。この区分は極めて重要で木材利用の常識中の常識と言っても過言ではありません。造作用に使われている接着剤は構造用と大きく異なります。また強度に関しても品質管理されていないので構造用として使うことができません。木質材料に関するトラブルの多くはユーザーがこの常識を理解していないことに由来しています。

 

エンジニアードウッド

強度性能が工学的に保証された木質建材のことです。構造部材を製造する際にエンジニアが最も関与しなければならない仕事、「工学的な手法によって強度性能を保証する工程」を経た木質建材がエンジニアードウッドです。誤解されていることが多いのですが、この用語は「木質材料」を新しい用語として言い換えたものではありません。木質材料のなかでも造作用集成材のように化粧・造作用に用いられる製品は、強度性能が保証されていないので、EW(エンジニアードウッド)ではありません。「エンジニアード」という用語は、エンジニアが関与したという意味なので「工業化」という概念とは無関係です。

 

軸材料と面材料

【軸材料】細長くて骨組みのような部材に使われる

軸材料の最も原始的な形が「丸太」です。伐採した材の枝を払い、適当な長さに切断し、樹皮を除去して使うのが一般的です。外側を丸く削って円柱形にして使う場合は「丸棒」、またこの加工方法を丸棒加工といいます。原木を帯鋸や丸鋸などで切断して形を整えたものが「製材」「製材品」です。集成材との対比のためによく使われるようになった無垢材という用語は製材とほぼ同義です。製材したひき板や角材をフィンガージョイントによって縦方向に接着接合したものが「たて継ぎ材」です。ひき板を何枚も軸方向に積層接着したものが「集成材」です。

 

【面材料】平面的で板のような用途に使われる

軸材料の場合と同じですが、木材を鋸で切断して形を整えたものが「製材」「板」です。幅の狭い板や角材を幅方向に接着したものが「集成材」です。集成材は軸材料だけでなく、造作用の面材料としても使われます。

 

構造用建築材料としての木材の長所・短所

木材の長所

木材の長所は8つです。

1. 軽いわりに強い

2. 手に入りやすい

3. 切削加工が容易

4. 耐久性が高い

5. 湿度調節機能がある

6. 熱伝導率が低い

7. 美的である

8. 接合が容易である

 

木材の短所

以前までは以下のような7点が木材の欠点とされていました。

1. 燃えること

2. くるいやすいこと

3. 腐ること

4. 鉄鋼に比べて強度が低いこと

5. 性質にバラツキがあること

6. 方向によって性質が異なること

7. 節や割れが存在すること

しかし、上にあげた短所は20世紀後半において比較的容易に克服できるようになりました。木材の強調すべきポイントは空気中の二酸化炭素を地球上に炭素化合物として固定しておく能力です。数ある構造用建築材料のなかでも二酸化炭素を吸収して固定できる能力を持つのは木材以外ほとんどありません。また以下の4点で他の金属材料などを断然引き離していると言えます。

1. 加工にあまりエネルギーを必要としない

2. 燃やせるので、廃棄の際にエネルギー源として利用できる

3. 自然に腐らせることができるので、廃棄に多大なエネルギーを必要としない

4. エネルギーをあまり使わずにリサイクル可能

 

木材と木質材料の耐久性

集成材に関する基本的な考え方と現状での問題点などを整理します。

 

【木材の風化と老化】

木材は直接光や風雨にさらされると、表面が黒く変色するとともに、柔らかい早材部からいわゆる「やせ」が生じます。この現象のことを木材の「風化」といいます。風化は、吸湿と乾燥の繰り返しによって木材の細胞が破壊されるとともに、光によってリグニンが分解され、さらに分解された物質が雨風によって脱落することで発生します。風化のように光や風雨に暴露される状態でなくても、木材を通常の大気中に放置しておくだけで、非常に緩やかな劣化が生じます。これを「老化」といいます。老化の速度は非常に遅いので木造住宅の場合は全く気にする必要性はありません。

 

【木材接着の耐久性】

木材接着の劣化に対する性質を「接着耐久性」といいます。一般的に接着の耐久性は生物劣化に対して比較的抵抗力が大きく、逆に風雨や老化に対しては抵抗力は小さくなります。接着耐久性は接着剤の種類によって大きな差があります。

 

【集成材の耐久性】

集成材は風化や老化、接着剤の耐久性によって耐久性能は大きく異なります。そのため構造用集成材の耐久試験は、水や煮沸水中に何時間か浸した後、乾燥させる促進劣化試験など、厳正にチェックをしています。

 現在のところ海外で判明している耐水性の接着剤を用いた集成材の実績は90年、高分子系のレゾルシノール樹脂接着剤を用いた集成材の実績は80年弱です。日本で耐水性の低い接着剤を用いて集成材が使われ始めたのが1951年です。この時に製造された集成材は解体され森林総合研究所に保管されていますが、現在でも十分使用できる状態です。一方、レゾルシノール樹脂接着剤を用いた構造用集成材は1965年以降しか無いので、55年程度の実績しかありません。ただし、きちんと防腐処理された構造用集成材は60年経過した後も、大きなダメージがないことが実証されていることから、接着耐久性は大きな問題にならず100年程度なら簡単にクリアできると記載されています。

 

【集成材の品質管理と使い方ミス】

構造用集成材の使用量が増えるにつれて「集成材神話」というトラブルが増えました。集成材は製材に比べると品質は安定していますが、鉄やプラスチックに比べると均質ではありません。また、構造用集成材が「くるいにくい」のは事実ですが、全く「くるわない」わけではありません。使用環境が悪い場合は、割れなどが発生する場合もあります。

 

集成材は優秀な木質材料ですが、特殊な性能をもった材料ではありません。そのため使用環境、使用方法はしっかりと守って使用する必要性があります。

 

木材の強度的性質

第2章は木材の強度的性質について、特に特異性に注目して簡単に解説が記載されています。以下の内容について記載されています。

 

・木材の変形について(外力/せん断/曲げ)

・木材の強度(圧縮強度/引張強度/曲げ強度/せん断強度)

・強度の異方性

・強度特性に影響を及ぼす因子とバラツキ

 繊維方向/密度と年輪幅/温度/荷重速度と荷重継続時間/経年変化/試験たいの形状と試験方法/強度特性のバラツキ

・実大材の強度特性について

無欠点小試験片に比べて強度が低いことが書かれています。

・実大材の強度試験について

無欠点小試験片に比べて強度が低いため、実際の寸法や使用状態に近い条件を設定した実大試験が行われます。実大試験には、「実大曲げ試験(構造用集成材の強度試験に使われる)」「実大引張試験」「実大圧縮試験(試験体は主に柱)」「実大せん断試験」があります。

・実大材の許容応力度と下限値

構造部材に「どれくらい力をかけても大丈夫なのか?」を示す指標として使われます。許容応力度とは、安全に使える単位面積あたりの外力の限度です。許容応力度は強度分布の下限値によって決定されます。つまり、高い許容応力度が与えられている製品とは、平均値が高い製品ではなくて、分布の下限値が高い製品です。

・構造信頼性

基本概念はL-Rモデルです。Lは荷重、Rは抵抗力です。L-Rモデルが示す意味は2つあります。1つ目は、部材の強度も部材に作用する荷重もいずれも一値ではなく、バラツキを持っていること。2つ目は、部材の破壊は部材の耐力より部材に作用する荷重の方が大きい時に生じるということです。

・強度等級区分

木材を性能別に区分することを「等級区分」、強度の大小で分けることを「強度等級区分」といいます。

・E-F表示

構造用木質材料の品質表示マークです。Eがヤング率、Fが曲げ強度を意味していますが、その製品のヤング率と曲げ強度の推定値を表しているわけではありません。例えば構造用集成材のE75-F240の場合、E75は製品全体のヤング率の平均値が7.5GPa以上であることを示します。F240は曲げの基準強度です。構造用集成材の各製品の基準強度は強度分布の平均値や中央値ではなくて、分布の下に位置する「5%下限値」相当の値です。

 

木材の加工

第3章は樹木を人間にとって使いやすい構造部材に加工するための技術について解説しています。製材、機械加工、乾燥、接着、接着の技術、たて継ぎ、配向、積層接着の力学的意味、難燃化処理について記載されています。接着、接着の技術については「木材接着の科学」の記事をご覧ください。本章から製材、機械加工、たて継ぎ、積層接着の力学的意味について要約します。

製材

製材とは、帯鋸や丸鋸などを用いて木材の形を整えることです。製材された製品も製材、製材品と呼ばれています。

 

帯鋸とは、歯を帯状の鋼に付け、両端を溶接して輪にしたものを、2つの鋸車にかけて回転させるものです。特徴は大径材や大断面の材を挽くことができることです。しかし、丸鋸に比べると木材の寸法精度や挽き肌の仕上がりは良くありません。

 

丸鋸とは鋼製の円盤の外周に鋸歯を取り付け、その円盤を回転させることによって木材を切削するものです。帯鋸に比べて、のこの厚さが厚いため挽き減りが大きく、製品の歩止りも低くなりがちです。また直径の3分の1程度の厚さの材しか挽けません。

 

製材は木取りの方法によって強度に大きな影響を受けることがあります。梢殺材では目切りが発生しやすくなります。もう一つ注意しないといけないことは節の出現状態です。集成材のラミナの製造工程において、単純にラミナをだら挽きするのではなく、外周部分からラミナを取って内部を柱角にする木取り方法は強度の視点からは合理的な手段です。

 

機械加工

単板切削とプレカット加工について解説します。

 

・単板切削とは木材に大型のナイフのような刃物をあて、薄くて長いエレメントを作ることです。ロータリー切削と製材品にかんなを当てるように1枚1枚、単板を薄くスライスする方法があります。この機械をスライサー、製造される単板をスライスド単板といいます。スライスド単板は、造作・化粧用として集成材や合板の表面に貼るために用いられています。単板切削における歩止りは、製材品や集成材のラミナに比べると高くなります。さらに歩止りをあげるためには原木の粗剝きの段階で排出される端材を有効処理する必要があります。

 

・プレカット加工とは、在来軸組構法の構造用材の加工方法です。プレカットとは、予め切削しておく意味です。工場で加工して建築現場では材を組み立てるだけで済むというのがプレカットの利点です。

 

たて継ぎ

たて継ぎには4つの種類があります。垂直型フィンガージョイント、水平型フィンガージョイント、突きつけ(バットジョイント)、スカーフジョイントです。バットジョイントとスカーフジョイントの接着時の問題点を克服するためにフィンガージョイントが考案された結果、集成材の製造効率が格段に向上しました。

 

フィンガージョイントは集成材のラミナだけではなく、フローリングや家具など、短材と短材をたて継ぎする場合や、節や割れ等の欠点を除去する場合は必ずといってもいいほど使用されています。

 

積層接着の力学的意味

ラミナを積層接着して集成材を製造する場合は、寸法を大きくする場合と接着によりラミナを一体化し、曲げの強度性能を大幅に改善させる目的があります。本では「異等級構成の集成材」が曲げの強度性能が一番高くなることが紹介されています。積層接着の利点は、「積層効果」による強度のバラツキの減少です。積層効果とは、バラツキのある原料であっても、それを何枚か積層接着して一体化すると、出来上がった製品の強度のバラツキは原材料より小さくなる現象のことです。

 

木質建材の強度特性

第4章は構造用木質建材ごとの強度特性について具体的に解説されています。紹介されている建材は、丸太、製材、たて継ぎ材、集成材、単板積層材(LVL)、PSLとOSL、Iビーム、合板、OSB、直交集成板、NLT、接着重ね材・接着合せ材です。本章からたて継ぎ材、集成材について詳しく要約します。

たて継ぎ材

一般製品として「たて継ぎ材(フィンガージョイント材)」が流通しているのは、「枠組壁工法構造用たて継ぎ材」のみです。構造用集成材用のラミナとしてたて継ぎ材は大量に使われていますが、一般市場には流通していません。

 

構造用のたて継ぎ材が日本で使えるようになったのは、1991年に「枠組壁工法構造用たて継ぎ材のJAS」が施行されてからです。それ以前は、構造用の利用は集成材のラミナを除いて認められていませんでした。理由は信頼性の確保が困難だったからです。

信頼性の確保が難しかった理由は、要素が「並列系」に並んだ積層製品に比べて、たて継ぎ材の耐力システムが「直列系」であるため、引張や曲げ荷重に対して信頼性が低いからです。そのため信頼性を高めるためにプルーフローディングの手法を用いて、接着不良が生じた製品を除品し製品全体の信頼性を高めています。

集成材

集成材の日本での歴史は、1951年に森林記念館のアーチにわん曲集成材が用いられたのが最初です。その後、1950年代後半から1960年代にかけて、わん曲集成材を用いた体育館などの大断面木造建築が総計1000棟程度建てられましたが、建築基準法による規制の強化や安価な鉄骨造の普及によって、1960年をピークに衰退しました。ところが、これと同じ頃に日本では木材需要が増加し、良質な製材品が不足したため集成材をコアにして表面に化粧単板を貼った、化粧柱が大量に普及しました。

それ以降は広葉樹集成材も普及し、集成材全体の生産量は増加しました。特に1987年以降には、大断面構造用集成材のJASが登場し集成材全体の生産量は飛躍的に伸びました。2003年度には集成材全体の生産量と輸入量の総計は200万㎥を超えています。

 

JASでは構造用集成材は①ひき板の構成②断面の大きさ③使用環境で分類されています。ひき板の構成は、「異等級対称構成」「異等級非対称構成」「同一級構成」で構成されています。断面の大きさは、大断面/中断面/小断面で分類されます。3つ目の使用環境での分類は、使用環境Aは屋外使用、使用環境Bは屋内使用で準耐火の性能、使用環境Cは屋内使用で耐火規定なしを想定しています。構造用木質材料の中で使用環境が設定されているのは構造用集成材と構造用LVLだけです。これは直射日光や雨風にさらされることのない部材に高度の耐候性をもったレゾルシノール接着剤を使う必要性はないと捉えることもできます。1994年にこの規定ができたことで構造用集成材に耐久性の若干劣る水分高分子イソシアネート系接着剤が使えるようになりました。

 

【構造用集成材の製造工程】

1. 原木

2. ラミナの製材

3. ラミナの乾燥

4. ラミナの等級区分

5. ラミナのたて継ぎ

6. 積層接着

7. 仕上げ

8. 製品

 

【構造用集成材の耐力メカニズム】

集成材の強度特性は、曲げや引張といった強度の種類によって異なりますが、特性のバラツキについては積層効果によって改善されています。実用的には基準強度値を使って構造計算すれば問題ありません。

 

材料からみた木造建築

伝統構法、在来軸組構法、金物構法、プレハブパネル構法、枠組壁構法、丸太組構法、大断面木造について新しく登場したきた材料の動向を補足しながら、木材・木質材料を利用する立場からの解説が記載されています。

 

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