「今さら人に聞けない木のはなし」(著)林知之

本書は日刊木材新聞紙で連載された「今さら人には聞けない木のはなし」を1冊の書籍にまとめた本です。要するに「木に関するウンチク」を集約した書籍です。

 

 

 

本書は元々新聞連載のコラムだったので、項目ごとに読み切りになっています。

 

短時間で必要な部分だけ読むことができます。

 

しかし内容はとても濃い内容に仕上がっており「木材の常識知識の向上」に役立てることができる書籍です。

 

本書より集成材・構造用集成材にまつわる記事と木の基礎知識の記事を分けて要約します.

 

 

集成材・構造用集成材関係

 

集成材が積層材ではない理由

 

集成材は英語でラミネイテッド・ウッドといいます。

 

普通に考えるとラミネイテッドは積層されたという意味であるから日本語訳にすると積層材あるいは接着積層材が正しくなりますが、言われていない理由には歴史的背景が関係しています。

 

 

 

集成材が初めて生産されたのは昭和26年です。

 

第二次世界大戦中に単板積層材が飛行機の構造材やプロペラなどに使われていたことからこの呼び方が却下され「集成材」になったと本には記載があります。

 

 

 

また集成材には、構造用集成材と造作用集成材があり2つの製品を総称した呼び名でもあります。ちなみにJASの集成材規格では、「ひき板又は小角材等をその繊維方向を互いにほぼ平行にして、厚さ、幅及び長さの方向に集成接着した一般材」と定義されています。

 

 

 

造作用集成材の強度性能は規定していませんが、構造用集成材は強度評価された原材料でないと製造できないという特性を理解することが重要です。

 

 

 

EーF表示って何

 

構造用集成材の品質表示マークには、強度等級E75-F240と表示があります。これはEがヤング率、Fが曲げ強度を表しています。この意味はE75は製品全体のヤング率の平均値が7.5GPa以上であることを示しています。

 

しかしあくまで平均値なので7.5GPa以下の製品も混じっています。そのため一般的には6.5GPa以下の製品はないと考えておくといいでしょう。

 

 

 

つまり、E75と製品に書いてあれば、その材の曲げヤング率が最低でも6.5GPa以上で、製品全体の平均値が7.5GPa以上であることが保証されているということです。

 

 

 

F240は、曲げの「基準強度」と呼ばれる値です。基準強度とは建築基準法の施行令で定められた値で、この値に使用期間の係数を掛けた値が「許容応力度」になります。

 

構造用集成材の各製品の基準強度は強度分布の平均値や中央値ではなく、分布の下に位置する「5%下限値」相当の値です。

 

 

 

つまり、EーF表示とは「Eはその製品のヤング率の平均値、Fはその製品に与えられた曲げの基準強度値」ということです。

 

 

 

スギは加工しやすい木なのか

 

結論からいうと、スギは難加工材です。スギの構造用集成材の製造ではラミナのヤング率のバラツキが実験上の障害になった。理由は目的とする断面構成の集成材を作ると、等級外の使えないラミナが多量に発生するからです。またヤング率の絶対値が低いことも、構造用としては大きな問題を抱えていますから、様々な工夫が必要です。

 

木材のクリープで特に気をつけること

 

水分の非定常状態下で木材にクリープが生じると異常に大きな変形を生じるということです。言い換えると、大きな荷重が作用した状態で未乾燥材が乾燥していくと、普通の収縮量以上にくるいが生じてしまうということです。どれくらい変形するのかは荷重の大きさと継続時間によってケースバイケースです。

 

 

 

金物工法で構造用集成材やLVLが多用される理由は、プレカットの加工精度が高いだけではなく、金物工法の梁受け金物には継続的に大きな荷重が作用するので、もしも乾燥されていない材が混じっていると、水分非定常状態下のクリープ、つまり異常な変形が接合部で生じる可能性が高いからです。

 

 

 

集成材の強度は製材の1.5倍なのか

 

構造用集成材のJAS規格が1996年頃に改正されるまで、構造用集成材1級の曲げ許容応力度は同樹種の構造用製材の1.5倍でした。しかしこれは10年以上前の話です。現在は、構造用集成材の強度特性はE-Fで表示されており、樹種と強度は直接リンクしていません。

 

 

 

つまり、ヤング率の平均値が低い樹種であっても、経済性を無視してヤング率の高いラミナをかき集めれば、高い基準強度をもった構造用集成材を作ることは可能ということです。

 

集成材がくるいにくい理由

 

集成材がくるいにくい理由は、原木をラミナや小角等の小さなエレメントに分解し、くるいにくいように集成加工しているからです。

 

木材は断面が小さいほど、乾燥速度が速くて、含水率が均一になりやすい特徴があります。また、くるいの原因になりやすい成長応力なども抜けやすくなります。この結果、乾燥されたエレメント自体がくるいにくくなり、これらを集成加工した集成材もくるいにくくなるわけです。

 

 

 

木材を一旦分解し再構築して木質材料を作る理由

 

1. 製材では寸法に制限があるから

 

2. 製材では要求する性能が得られないから

 

3. 原料そのものが製材に適さないから

 

例えば、曲がりの大きな丸太から柱は取れないが集成材の原木としては使える

 

4. 分解すれば乾燥が容易になるから

 

 

 

木質材料の製品ごとに理由は異なりますが、構造用大断面集成材の場合は1と2が理由です。

 

 

 

積層すればなぜバラツキが小さくなるのか

 

バラツキが小さい理由は複数あるが、1番の理由は「積層効果があるから」です。

 

積層効果とは、特性のバラツキが大きな原材料から、何枚か取り出して複層接着すれば、一体化して製品のバラツキは原材料よりも小さくなるという原理です。

 

 

 

集成材と単板積層材の違い

 

両者の違いは、集成材は厚いひき材を原材料にしており、単板積層材は薄い単板を原材料にしている点です。両者はJAS定義で以下のように記載されています。

 

 

 

集成材とは「ひき板、小角材等をその繊維方向を互いにほぼ並行にして、厚さ、幅及び長さの方向に集成接着をした一般材」

 

 

 

単板積層材(LVL)は「ロータリーレース、スライサーそのほかの切削機械により切削した単板を主としてその繊維方向を互いにほぼ平行にして積層した一般材及び繊維方向が直交する単板を用いた場合にあっては、直交する単板の合計厚さが製品の厚さの20%以下であり、かつ、当該単板の枚数の構成比が30%以下である一般材」

 

 

 

木の基礎知識

 

今さら聞けない「木」の基本知識に関係する話をまとめています。

 

板目板が反る理由

 

板目板が反る理由は、木材の接線方向は、放射方向のおよそ2倍収縮するからです。言い換えると「板目は柾目の2倍収縮する」からです。もっと簡単に言うと、外縁に近いほど収集縮率が高くなる性質があるからです。

 

正倉院の校倉壁は本当に湿度調整をしているのか

 

正倉院の壁の構成している校木は常に密着していて、隙間が開閉したりしていないのが真実である。また、正倉院の床も天井も屋根も、特に気密性が高い構造ではありません。さらにいうと、正倉院の3連の倉のうち真ん中の中倉は、単なる板を積み重ねた「板倉」であるということも分かっています。

 

しかし宝物の保存状態が良かったことは事実で、その理由はただ単に木材の湿度調整作用が校倉内で働いていただけだったのです。

 

木の年輪幅は本当南側が広いのか

 

南側の木がよく育つだけであって、木の南側がよく育つわけではないのです。つまり、南側の年輪だけが広くなることはありません。これは光合成によって作られた新しい細胞の原料となる糖分が上部からストンと下りてくる訳ではなく、樹幹全体にらせん状・扇状に拡散しながら下りてくる性質があるからです。

 

世界最大の木造建築

 

日本最大の木造建築は秋田の大館樹海ドームです。樹海ドームは長径178m、短径157m、高さ52mです。そして世界一大きい建築はオレゴンの飛行船の格納庫です。この飛行船格納庫は現在も健在で、現在は航空機博物館として使用されています。

 

ヤング率とは

 

本書では数式を使ってヤング率を説明する点が難しいことに対して言及しています。ヤング率を簡単に説明すると、断面積1㎠でながさ10㎝の木材を引っ張って、1mmだけ伸ばした時の荷重を100倍したものです。

 

木材の含水率が一般人の思いつく含水率と異なる理由

 

木材の含水率は実用面で3つの点で便利なので、カラカラの木材の重さを基準にしています。1つ目は、乾量基準の方が水分量の変化が分かりやすいこと。2つ目は、自由水のない繊維飽和点以下では、乾量基準含水率と色々な木材特性との間に直線的な比例関係が存在することが多いから。3つ目は、湿量基準なら「含水率が1%変化すると、◯◯の特性が☆☆だけ変化する」と表現しやすいからです。

 

合板はなぜ奇数枚構成なのか

 

合板が奇数である理由は、寸法安定性の確保のためです。これは積層数が増えると縦横の異方性が少なくなるからである。ちなみに、OSB、スギのクロスプライボードが直交3層構成になっている理由も同じです。

 

誤解・混乱が生じやすい年輪関連の用語

 

早材とは、春から夏にかけて形成層の成長分裂によってできた細胞壁です。晩材とは、夏から秋にかけてできた細胞壁で細胞壁は厚く、色は濃いという特徴があります。また冬の間は樹木は肥大成長しません。

 

 

 

木材の原料は何

 

樹木は光合成をする時に取り入れる二酸化炭素から酸素を排出した後の炭素で細胞壁を作っています。葉緑素が光エネルギーを使って、水と空気中の二酸化炭素からブドウ糖を作り、樹木の隅々まで行き渡らせています。根から取り入れているのは無機物なので細胞壁の材料にはなっていません。

 

接着でくっつく理由

 

接着を一言でいうと、「被着材と接着剤の間に、物理的結合と機械的結合と化学結合が複雑に生じるから」になります。接着の原理は1つで説明しきれないほど複雑怪奇です。本書には「分子間力」が作用するからくっつくについてのみ説明されています。

 

 

 

分子力力を分かりやすく例えると、フロントガラスについた雨粒が下に落ちない状態です。またこれに近い現象で氷による接着があります。冷凍庫で2枚のお皿が氷で接着されているところをイメージすると分かりやすいです。これも分子間力による接着です。

 

 

 

木材接着の場合は、凹凸に接着剤が流れて固まることで木材同士がくっついていますが分子間力以外の作用も働いていることを理解しておくことが大切です。

 

 

 

樹木は生きているのか

 

実は樹木の「樹幹」はかなりの部分が死んでいます。樹幹のうち形成層が外側に分裂して作り出す樹皮のうち、内樹皮は生きていますが直接目に見える外樹皮は核やミトコンドリアといった細胞の内容物が消失しています。

 

 

 

生きて冬を過ごすのは、細胞分裂を行う薄い形成層と栄養を蓄えておく機能をもった柔細胞だけです。さらに柔細胞のうち生きているのは辺材だけで、心材は他の細胞と同じで死んでいます。巨木・古木に大きな洞があっても生きていられる理由はそもそも樹心部分が元々死んでいるからです。

 

木材の収縮率が放射方向と接線方向で異なる理由

 

木材の収縮率が異なる理由は、木材細胞の接線方向の壁が放射方向の壁よりも収縮しやすい構造になっているからです。また放射組織には収縮しにくい帯があるので収縮量が小さくなります。さらに、比重が高くて収縮率の大きい晩材と、比重が低くて収縮率の小さい早材とが層構造を形成しているから両者の差が生じるとも説明することができます。

 

 

 

収縮率が異なる原因は、これら全てが複合的に働いた現象である事は確かですが、全てが解明されているわけではないと本書に記載があります。

 

たて継ぎといえばなぜフィンガージョイントなのか

 

フィンガージョイントは切り捨てる部分が小さいので歩止りが高い。また、大きな接着面が確保されるため、高い接着強度を得ることができます。さらに、エンドプレッシャーによって生じる摩擦力によって、指同士が互いに「楔」のようになり、2材がしっかりと固定されるようになっています。このため、接着剤が完全に硬化するのを待たずに、次の製造工程に移ることができるメリットがあります。

 

以上のことから、「強度性能と生産性が高いから」たて継ぎはフィンガージョイントが採用されています。

 

木材の割れがあっても怖くないのはなぜか

 

木材の割れは繊維方向に沿った形でしか発生せず、引張・圧縮・曲げの部材に、少々の割れがあっても大きな強度低下はしないからです。

 

 

「今さら人には聞けない木のはなし」まとめ

 

全50回のコラムの中から24回分にあたる木の基本知識と集成材・構造用集成材について要約しました。

 

 

 

本書はタイトルにあるように、今さら聞けないけど業界人なら知っておくべき話、また一般人でも楽しめる木の話が書かれていました。

 

 

 

読むと木には科学的に解明されていない部分が多数あることが分かり、木材・木の文化に対しての興味を刺激される本でした。

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