「集成材(木を超えた木)開発の建築史」
  小林幸平(著)

この本は、構造用集成材についての知識を深めたい人におすすめの1冊です。

 

 

 

集成材天然木材との違いは?」

 

集成材製造工程は?」

 

集成材が日本で使われるようになった背景は?」

 

 

 

といった悩みは本書を読めば解決します。

 

 

 

本書では、集成材工学的に最も信頼性の高い構造材料として確固たる地位を獲得するまでに辿ってきた建築史が書かれています。

 

 

 

本書から

 

集成材とは?

 

・構造用集成材の製造方法

 

・構造用集成材の昔〜今の流れ

 

 

 

集成材メーカーにお勤めの方から、これから集成材についてゼロから学ぶ人分かりやすく解説していきます。

 

 

集成材とは?

集成材とは「天然の木材の欠点を改善した工学的に信頼性が高い材料」ということが本には書かれています。

 

 

 

 

 

 

 

集成材は原料となる丸太から、2~4cm程度の厚さに切り出される『ひき板』(ラミナという)や小角材乾燥させ、厚さ、幅及び長さの方向に接着した木質材料をいいます」

 

 

 

※引用元 日本集成材工業協同組合

 

 

 

 

 

 

 

特性は以下の2点です。

 

 

 

1. 一枚一枚のラミナが適正な含水率(12%程度)に人工乾燥されているので,断面の大きな集成材になっても内部まで乾燥が行き届いており、使用期間中に狂いや割れなどが起こりにくい。(全く起こらないわけではない)

 

 

 

2. 節などの欠点は積極的に除去されており,相対的に力学的性能の低い低位等級ラミナはあまり力のかからない内層部分に配置される(図 1.4)。逆に,相対的に力学的性能の高い高位等級ラミナ中位等級ラミナは力が沢山かかる外層部分に配置されることによって,完成した集成材は天然の木材に比べると,最も合理的に力を負担できるよう「構造設計された木質材木

 

 

 

※集成材には、「構造用集成材」「造作集成材」などがあるが本書では「構造用集成材」についてのみ書かれています。

 

 

 

 

 

 

 

本書では「構造用集成材」が、現代で多く使われている「接着積層集成材」に至るまでの経緯が紹介されています。

集成材が注目される2つの理由

「天然の木材だけでは安定的に大型建築物を作れない」
「地球温暖化対策」
日本の住居は木造建築が主であり、天然木をよく乾燥させて活用されてきました。
 
 
 
 
 
 
 
しかし、天然の木では安定的に建築物を作れないという問題を抱えていました。
 
 
 
 
 
 
 
原因は大きく2つです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
があると製材としての強度が低下する
 
 
 
 
 
 
 
十分に乾燥させないと梁の反りや割れの発生につながる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
このような性質を工学的に解決してくれているのが”構造用集成材”です。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
しかし、建物の規模が大きくなると、必要とする梁の長さが長くなったり地震力が建物の自重が大きくなると比例して多くなることから使用を避けられていた背景があります。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
以上の理由から、大型建築物は鉄やコンクリートで建てるというのが風潮でした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
しかし、地球温暖化対策のためCO2排出量を削減しないといけなくなりました。
 
 
 
 
 
 
 
農林水産省と国土交通省がタッグを組んで「都市の森林化」を進めるにあたり、構造用集成材に注目が集まるようになったのです。

構造用集成材とは?

 

 

構造用集成材とは、所要の耐力を目的として等級区分したひき板(ラミナ)を集成接着したものです。

 

 

 

日本の構造用集成材建築は1951年「森林記念館」がスタートだと本には書かれています。

 

 

 

そして、1957年〜1968年はベビーブームの影響を受けて、学校や体育館など大断面集成材の需要が上がりました。

 

 

 

このブームの最も有名な建築物は「新発田市立厚生年金体育館」です。

 

 

 

引用元:https://report-takahashi.com/2021/10/28/%E6%9C%A8%E9%80%A0%E5%BB%BA%E7%AF%89%E3%82%92%E3%81%BF%E3%81%A4%E3%82%81%E3%81%AA%E3%81%8A%E3%81%97%E3%81%A6/

 

 

 

しかし、法令上の防火規制強化の流れを受けて1960年代〜1980年代最初のころまでは、集成材建築着工数はほとんどゼロであったと記録されています。

集成材構造建築物の新たな発展が始まったのは1980年代に入り規制緩和が行われてからです。

 

この規制緩和では「燃え代設計」が可能となったことで、大規模な集成材構造建築物を大いに促すことになりました。

 

 

 

「燃え代設計」とは

 

 大断面木造と表裏一体の関係にあった大断面構造用集成材の場合は、燃焼が予想される表面に「25mmの燃え代層」を付加することによって、毎分0.8mm程度は集成材表面が焼け焦げて炭化は進むものの、単価の及ばない内部は元の健全な性能を維持して、およそ30分間程度は建物の自重や長期的な荷重に耐えることができる設計

 

 

 

最初に研究者の間で注目されたのが、1893年に完成した神奈川県茅ヶ崎市の「太陽の郷スポールガーデンのプール棟」です。

 

 

 

20年間集成材構造建築の実績がなかった日本において、初の本格的集成材構造建築物として注目を集めました。

 

 

 

次に構造用集成材の製造方法について詳しく解説していきます。

 

構造用集成材の製造方法

※引用元 日本集成材工業協同組合

 

 

 

構造用集成材は以下のような工程で製造されています。

 

 

 

1. 丸太からラミナを鋸挽き

 

2. 人工乾燥

 

3. ラミナのグレーディング

 

4. ラミナのヤング係数に拠って等級区分する

 

5. 節等の欠点除去

 

6. ラミナの縦継ぎ

 

7. プレーナー掛け

 

8. 中・高等級ラミナのみ保証荷重試験

 

9. 接着剤塗布

 

10. 積層、圧締、接着剤硬化

 

11. 構造用集成材の完成

 

 

 

詳しく解説していきます。

 

丸太からラミナを鋸挽き

 

森林で育った原木丸太を伐採し、製造工場で厚さ2㎝〜3.5㎝、幅7.5㎝〜20㎝、長さはさまざまなラミナと呼ばれる挽き板を製材します。

 

鋸で板を挽くという行為が重要で、大型のナイフで丸太を剥いて単板を採る合板などとは材料の使い方が根本的に異なります。

 

 

 

人工乾燥

 

伐採直後のラミナは、地震の重さの2倍近い重量の水分を含んでいるので、高温の空気の中にラミナを置いてその大部分の水分を蒸発・乾燥させて、含水量を12%程度にまで低下させます。

 

ラミナのグレーディング

 

ラミナをグレーディングマシンと呼ばれる連続的に曲げたわみを与えることのできる機械に通してたわみを連続的に測定し、たわみ量の大小に応じてラミナをいくつかのグループに区分します。(このようなグループを等級区分といいます。)

 

ラミナのヤング係数の拠って等級区分する

 

外部から区別できるように、等級別に異なる色を吹きつけて仕分けします。

 

節等の欠点除去

 

等級ごとに、ラミナに存在する節や腐れ、その他の欠点を除去します。会社によっては、木材内部の欠点を高速で自動的に検知できる機械を通して、欠点を瞬時に発見し、その後欠点を自動的に除去する工程を導入しています。

 

ラミナの縦継ぎ

 

等級ごとに、短くなったラミナをフィンガージョイントと呼ばれる接着接合法によって再度一本の長いラミナに縦接合します。

 

 

 

※フィンガージョイントとは、材料の木口端部をカッターで手の指状(フィンガー)に加工して、その加工部に接着剤を塗ってはめ合せ、圧締接着して長い材料を作る方法です。フィンガー加工を施すことで、材料の損失が比較的少なく、また接着剤の塗布面積が広くなるので接着強度を高めることができます。

 

プレーナー掛け

 

等級ごとにフィンガージョイントで接合されたラミナをプレーナー(木材の表面を薄く切削する自動鉋盤)に通して平滑な表面に仕上げます。

 

中・高等級ラミナのみ保証荷重試験

 

低位等級のラミナはそのまま利用するが、大きな力を受ける可能性の高い高・中位等級ラミナについては、フィンガージョイントの強度性能を検査するため、決められた荷重を掛けて接合が破壊しないことを確かめる保障荷重試験を行います。

 

 

 

接着剤塗布

 

ベルトコンベアーの上を流れていくラミナの表面に接着剤を均等に塗布します。

 

積層、圧締、接着剤硬化

 

製造基準等で決められた通り、高位等級ラミナを外層に、それより内側に中位等級のラミナを、そして残りの内層部分には低位等級なラミナを配して積層・圧締・接着剤を硬化させます。

 

構造用集成材の完成

 

1日間圧締状態を保持した後、圧締圧を解放し、接着剤で汚れた集成材表面を移動式ベルトサンダーや、幅広び回転式プレーナーで綺麗に加工した後、美しい木肌の集成材が完成します。

 

 

 

次に構造用集成材の建築史について時系列に沿って解説していきます。

構造用集成材建築開発の歴史

集成材の基礎知識について説明してきました。

 

 

 

 

 

 

 

1906年に発明され現在広く使われている「接着積層集成材」は、16世紀のヨーロッパで発明された積層アーチ屋根を出発点としています。

 

 

 

 

 

 

 

時系列に沿って集成材がどのような進化を遂げてきたのかを解説していきます。

 

 

 

16世紀 縦使い厚板構法の誕生

 

 

 

フランスの建築家フィリベルト・デムーロが、垂直積層木造アーチ構造を長さの短い円弧状の木材厚板を縦に使い積層して作り上げる建築構造を提案しました。

 

 

 

 

 

 

 

円弧状縦使い厚板を用いるアーチ屋根構造は、現代においても十分活用できる木造建築構法であると著者は述べており、以下の三点を評価しています。

 

 

 

 

 

 

 

1. 短い木材の厚板を利用して、大スパンのアーチ屋根構造を掛け渡すことができる点

 

 

 

2. 部品は全て木材の短尺円弧状厚板、リエルネ、楔だけで構成されている。

 

 

 

3. 厚板の向きを様々に組み合わせることによって、一定の曲率を持った湾曲型の屋根構造だけではなく、途中からS字型のカーブを描く様々なデザインの屋根構造も設計可能

 

 

 

 

 

 

 

フィリベルト・デムーロの建築構法は死後200年の歳月を経て、フランスで脚光を浴びた後ラテンアメリカ諸国に伝わりました。

 

 

 

 

 

 

 

フィリベルト・デムーロの死後、円弧状縦使い厚板アーチ構法の欠点を補い、この構法を拡大・発展させた建築家がデビット・ギリーです。

 

 

 

 

 

 

 

19世紀初頭に彼の思い切った構法の近代化と合理化のおかげで広く普及することになりました。

 

 

 

 

 

 

 

その後、フィリベルト・デムーロの円弧状縦使い厚板アーチ構法は「垂直積層アーチ」の元祖と位置付けられるようになりました。

 

 

 

水平積層アーチの誕生

 

 

 

アーマンド・ローズ・エミー大佐の発明は「水平積層アーチ」の元祖と言われており有名です。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、本書では文献を調査していくうちに、エミー大佐の水平アーチ構造よりも前に、橋梁の分野において先行開発されていたことが分かったと書かれています。

 

 

 

 

 

 

 

「水平積層アーチ」の真の創始者は18世紀中頃から19世紀初頭にかけて、スイスやドイツで活躍した大工棟梁、橋梁技術者の可能性が浮上したのです。

 

 

 

 

 

 

 

最古の機械的水平積層アーチ構法を用いたのは、1764年〜1766年スイスのウェッチンゲンのリマット川に大工棟梁ハンス・ウルリッヒ・グリューベンマンによって架けられたスパン61mの木橋だとされています。

 

 

 

 

 

 

 

この次に本格的に機械的水平積層アーチ構法を用いたのは、19世紀初頭にドイツのババリア地方、レグニッツ河にカール・フロイドリッヒ・ホン・ウィーベッキングによって架けられたバンベルグ橋です。

 

 

 

 

 

 

 

この橋は最長スパン208フィート、幅員32フィートという単一経間の木橋としては、現在の集成材橋のレベルでみても非常に長大で幅広い橋です。

 

 

 

 

 

 

 

この橋の特徴は、大きな断面の木材をボルトで串刺しして、各木材ができるだけ辷らないように「栓」のような抵抗要素を各積層木材の界面に差し込んで積層アーチを構成している点です。

 

 

 

 

 

 

 

現在の集成材アーチ橋は非常に強力で信頼性の高い「合成樹脂接着剤」が使われていますが、当時の技術力でこのような長大な木橋を掛け渡したことに感服すると著者は表現されています。

 

 

 

 

 

 

 

水平積層アーチの誕生 アメリカ

 

 

 

アメリカでは、19世紀初頭にドイツのウィーベッキングがバンベルグ橋を架設したより少し前から大規模な木橋がいくつも架設されていたことが分かっています。

 

 

 

 

 

 

 

中でも、1804年〜1806年にかけてデラウェラ河にセアドア・ブールによって架設されたトレントン橋は他に類をみない極めてユニークな橋です。

 

 

 

 

 

 

 

この橋は構造が当時としては画期的な張弦アーチ構造であったことに加えて、当時としては当たり前であった屋根をアーチの長手方向に添って掛け渡し、さらに側面には覆いを設けずに湾曲アーチ構造と吊り材や斜めのブレースを外部から見えるようにした斬新なデザインが採用されています。

 

 

 

 

 

 

 

その特徴的なデザインは、アーチの曲面に沿って配置された山型屋根が長軸方向に5つ並んだ姿で、「遊園地のメリーゴーランドのような側面」と著者は表現しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エミー大佐による水平積層アーチ屋根構造

 

 

 

エミー大佐が提案した積層アーチの特徴は、比較的曲げやすい木材のラミナを湾曲させながら数枚水平に重ね合わせてアーチを構成する点です。

 

 

 

 

 

 

 

湾曲した形状を保つために、要所要所にボルトを貫通させ、また鉄の帯板で積層されたラミナを結束させています。

 

 

 

 

 

 

 

さらに、アーチ部材の外側に配した柱や垂木と積層したアーチ部材とを連結部材で結合して、屋根全体として安定した架構を形作るもので、現在の接着積層集成材に外観的には似た形態をしています。

 

 

 

 

 

 

 

エミー大佐の提案した構法は今まで紹介した「フィリベルト・デムーロ」や「ウィーベッキング」の影響を強く受けていたと本には書かれています。

 

 

 

 

 

 

 

エミー大佐が発明した「曲げやすい厚さの木材を水平に積層してアーチ屋根を構成する方法」についての詳しい解説は彼が出版した書籍を参考にしてください。

 

 

 

参考:https://amzn.asia/d/9r8ALaQ

 

 

 

接着積層集成材の発明

 

 

 

現代的な接着積層集成材に関する最初の特許は、1906年にドイツのカール・フロイドリッヒ・オットー・ヘッツアーによって取得されました。

 

 

 

 

 

 

 

特許書類には「3枚の木材の板もしくは必要に応じてそれ以上の木材の板を長手方向に積層し、水では剥がれない接着剤を用い、圧力をかけて湾曲一体化された骨組みを構成する」と説明されており、まさに現代的接着積層集成材と呼ぶのにふさわしい内容です。

 

 

 

 

 

 

 

これらの技術は第一次世界大戦後にアメリカに伝わり、マックス・ハニッシュ郷の手によりさまざまな改良を重ねられ、現在の構造用集成材に使用されている最も信頼性の高いレゾルシノール樹脂接着剤の開発に至ることになりました。

 

 

 

 

 

 

 

以上が、16世紀のフィリベルト・デムーロが開発した積層アーチ屋根の構法を起点とし、さまざまな建築家、大工棟梁の施工の末、現在の接着積層集成材が発明された建築史です。

 

 

 

 

 

 

 

構造用集成材開発の建築史のまとめ

 

 

 

内容をもう一度まとめます。

 

 

 

 

 

 

 

● 集成材とは、天然の木材の欠点を改善した工学的に信頼性が高い材料である

 

 

 

● 「構造用集成材」が、「接着積層集成材」に至るまでの建築史が著者の視点から詳細に書かれている

 

 

 

● 構造用集成材が注目される原因は「天然の木材だけでは安定的に大型建築物を作れない」「地球温暖化対策」のため

 

 

 

● 構造用集成材の製造工程は全11工程からなる

 

 

 

● 天然の木材の欠点を補い、安定的に建築物を建築できるメリットがある

 

 

 

● 現在の接着積層集成材の原点は、フランスの建築家フィリベルト・デムーロの「円弧状縦使い厚板を用いるアーチ屋根構造」を起点としている

 

 

 

● ウィーベッキング、エミー大佐、ヘッツアー、ハニッシュ郷の手によってさまざまな改良が重ねられて現代の接着積層集成材が発明された。

 

 

 

 

 

 

 

16世紀から現代までに構造用集成材がヨーロッパからアメリカを通じて日本にどのようにして渡ってきたのかという建築史を要約しました。

 

 

 

 

 

 

 

本書を読むことで構造用集成材の正しい建築史を学ぶことができ、集成材の可能性を深く知るきっかけになるでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

集成材メーカーの方や関連する仕事をする方は一読を強くおすすめします。

 

本にはもっと深い内容が書かれていますので、実際に購入され熟読をお勧めいたします。

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